ゴロゴロ(※タカヤに猫耳としっぽつき。もちろん飼い主は榛名です)
オレの飼い主はどうしようもないバカだ。
こいつのところにきてもうすぐ一年になるけど、よくまあここまで無事に成長できたもんだと自分に感心する。なんせ、オレの飼い主ときたら、猫の世話どころか自分のことだってロクにかまやしねえヤツなんだ。
それならそれで、オレのこともほっといてくれればいいのに、外で何かしらバカな知識を仕入れてきては試そうとするからタチが悪い。
たぶん今日、こうやってオレの喉をいじって首を締めようとしているのも、そのせいだ。
きっと悪気はないはず。・・・・ないはず、だけど―――
「・・・いいかげんにしてくれませんか」
「あ?なにを?」
「喉、苦しいんすけど」
「ああ。ちょっと待ってろ」
オレの話なんてまともに聞きやしねえ。
元希さんがオレの喉に添えた手を再び動かしはじめるのを、観念して見守った。珍しく真剣な顔をして、長い指を、右へ左へ、探るように喉元を這わせる。
正直、かなり気持ち悪いけれど、真面目な元希さんの顔を見ることができるなんて滅多にないことだから我慢した。
こうして黙ってさえいれば、オレの飼い主はけっこう、いや、かなり顔が整っている。
別に顔で飼ってもらってるわけじゃないけど、オレは結構この人の顔が好きだ。
それなのに、いつも言動ですべてを台無しにしてしまう。それはそれですごい才能だよな。
「・・・ここか?」
「・・・・・」
「んじゃ、こうか?」
「・・・・・」
「ダメかよ、チッ・・これならどうだ!」
「・・っふ・・ぐっ」
オレの喉を弄っていた元希さんが不意にイラついたように、硬い指先を喉にグリグリと押し当ててくる。えずきそうになってしまって、さすがに身の危険を感じたオレは、元希さんの傍から素早く逃げ出した。
「いってーな!!だいたい、あんたさっきから何やってんすか!!!」
「喉、鳴らせよ」
拗ねたように元希さんが告げる。
「はあ?」
「喉撫でてやったら、ゴロゴローってなんだろ。アレやれよ」
まったく、何を言い出すのかと思ったら。
あれで喉を撫でてるつもりだったのか、この人は。
「やれっつってできるもんじゃねーんですよ」
「だから撫でてやってんじゃねーか」
「あんた、力が強すぎて喉がいてーんだよ。オレを窒息死させる気ですか」
「んだよ。お前、猫のくせに喉んとこ不感症かよ。つまんねー」
興ざめしたように天井を仰ぐ姿が癪にさわる。誰が不感症だ。
「あんたがヘッタクソだからだろっ」
「んだと、てめーがじっとしてねえから!」
「じゅうぶん、動かないで我慢してやってただろ!!オレのせいにすんな!」
「んなこといって、お前がゴロゴロ言ってんの聞いたことねーぞ」
「ちゃんとゴロゴロって鳴ってるときは鳴ってんだよ」
「それを今、飼い主のオレに聞かせろっつーの」
「だから、やろうと思ってやれるもんじゃねーって言ってんだろ!!喉が鳴るのは気持ちいいときだけなんだよ!」
「・・・・・・」
いまいましいほどに即座にかえってくる言葉がとまる。訝しんで視線を向ければ、元希さんがふてくされたように唇を尖らせて呟いた。
「・・・お前、オレに撫でられるの気持ちよくねーのかよ」
「・・・そういうわけじゃ・・」
デカイ図体して拗ねんなっつーの。まったく。
元希さんはズルイ。
さっきまで喉を締められそうになってた被害者のオレが、なんでこんな罪悪感を抱かなきゃなんねえんだ。
それでも、オレは黙ってするりと元希さんの傍に戻った。
「あんたの力は強すぎるんすよ。とにかく、もう喉は勘弁してください」
「わーったよ」
不満そうにしながら、今度はオレの背中をゆっくり撫ではじめる。
大きな手で撫でられると、ぞわぞわして落ち着かない気分になるから困るんだけど、これくらいはさせてやらなきゃな。これも飼い主サービス。ほんと手間のかかるヤツだ。
「元希さん?」
目を閉じて身を任せていたら、だんだん鈍くなりはじめた手の動きが完全に止まった。騒がしい飼い主の静かすぎる気配に、顔を上げて姿を見れば、元希さんはソファにもたれたままで眠ってしまっている。
あーあ、こんな格好で寝たら起きた後で体が痛くなるんじゃねえの。
さすがにこのデカい図体を運ぶことはできないので、とりあえず体を押して横たわらせる。
じっとしているとたちまち体温が奪われる寒い季節だから、寝室から毛布を持ってきて肩から覆うように被せてやった。どこまでも世話がやける。
毛布に包まれた元希さんは、気持ちよさそうに眠っている。
ったく、いい気なもんだよな。猫のオレよりも飼い主のあんたのほうがよっぽど自由気ままなんじゃねえのか。
なんだか悔しい気がして、幸せそうな顔を覗きこんで、指で軽く鼻をつついてみる。
「っっわ」
すると、不意に毛布の中から腕が伸びてきて手首を捉えられた。
「元希・・さん?」
起こしてしまったのかと小さく呼びかけたけれど、返事はない。規則正しい呼吸音だけが静かな部屋に響く。
どうするんだよ。これ。
力強く握られた手首と、元希さんの寝顔に視線をやって、ため息をついた。
じわじわと手首から熱が伝わる。おまけに気持ちよさそうな寝息に導かれて、だんだんオレまで眠くなってしまう。
しかたねえな。もう一度、元希さんの顔を覗きこみ、熟睡しているのを確認すると、毛布の中にもぐりこんだ。
侵入してきた冷たい空気に、元希さんはちょっと顔をしかめて低い声で唸ったけれど起きる気配はない。
遠慮なしに胸を枕にすると、ほどよくまるまった。猫に比べて人間の体はとにかく硬い。とくにこの人は、筋肉のせいでことさらゴツゴツしてる。けど、くっついていると、この堅固さがなぜか安心できて気持ちいい。
耳に伝わる心臓の音を聞きながら、じっとしているとしだいに毛布と元希さんの体温が沁みてきて、ほかほかに温められる。
安堵と温もりで、ふんわりと心地よくなってきたら、ゴロゴロと喉がなりはじめた。
元希さん、あんたほんとにバカだよな。
撫でてもらわなくても、気持ちよければ喉は自然と鳴るもんなのに。
先に寝てるあんたは知らないだろうけど、こうしてくっついて寝てるときはいつも―――。
もちろん、そんなこと、絶対教えてやらねぇけど。
なんでこんな甘甘になっちゃたんだ。穴掘って、アルゼンチンまで行ってしまいたい。
人のまわしで相撲を取るシリーズです。(シリーズ化すんな)
今回は
Day Tripper sideBのタカトウさんとこの猫タカヤに手をだしました。
眼鏡榛名を描いてもらったお礼といいながら、恩を仇で返す所業です。
猫タカヤファンの皆さま、ごめんなさい。うん、わかってます、こんなん猫タカヤじゃないよね・・・。
でもタカトウさんは優しいからきっと許してくれると思う・・・んだけどな。
今日はタカヤの誕生日だから、すべての罪が許される日だよ!!
猫のゴロゴロは人間の微笑みと同じものらしいです。
猫と一緒に寝てるとき、喉が鳴ってるのを聞くと幸せですよねー
(2007/12/11)