炬燵(※シュンタカ・・というより榛名VSシュンちゃんです)
(言っとくけど、兄ちゃんは絶対てめーにはやんねえからな)
(ばーか。やんねえもなんも、タカヤはとっくにオレのもんなんだよ)
冬の日、暖かな阿部家の居間の炬燵では、真ん中に座った隆也の背中越しに、榛名とシュンが冷えきった争いを続けていた。隆也に気づかれると怒られてしまうから、小声で罵り合い、手足で静かなる攻防を繰り広げる。
さすがに背後の殺伐とした空気に勘付いた隆也がふと振り返ると、二人して何事もなかったように素早く手足をひっこめて、そっぽを向く。隆也が不審げな表情で尋ねた。
「・・・元希さん、シュンと喋りたいんなら、オレあっち行きますけど」
「ばっ、んなわけねーだろ!」
「でも、さっきから何か二人で喋ってませんでしたか?」
「喋ってねーよ。気のせいだろ。あ、もしかしてお前、妬いてんの?怒ったタカヤもエロくていいなー」
「人前でそういうこと言うなっつってんだろ!」
「ってーな。って!!」
瞬時に真っ赤になった隆也に容赦なく頭を叩かれた榛名が、二重の悲鳴をあげた。すかさず背後を睨みつけると、シュンが背中をつねっている。
(っつ、おめー、いてーだろ!!!)
(てめー、きめえんだよ!)
(んだと、このっ)
榛名が生意気なシュンの手首を掴んだその瞬間――
「兄ちゃん!モトキさんがいきなりオレの手、握んだよーー」
シュンがかわいく大きな声で叫んで、隆也にしがみついた。
振り返った隆也は、シュンの手首を握り締めている元希の手と顔を交互に凝視して静かな声で問う。
「・・・元希さん」
「ばっか、タカヤ。んなわけねーだろ。くっそ、シュンてめーー」
「兄ちゃーん」
「人の弟に、凄まないでください。シュン、あぶねーからお前、あっちに行っとけ」
「えー、でもオレ、兄ちゃんの隣がいい」
「お前はほんっと、小さい頃から人にくっつくのが好きだな・・」
わき腹にしがみついてくるシュンに呆れたようにこぼす。
「兄ちゃんにくっつくのがいいんだよーーー」
「はいはい。わかったよ・・・って元希さん、あんた何やってんすか」
「オレもタカヤとくっつきてー」
「うざいからやめてください・・ったく二人して、ほらシュンお前もいいかげん離れ・・あ」
両脇から男二人に抱きつかれて、さすがに隆也がげんなりしていると玄関のチャイムが鳴った。
「誰か来たね」
「母さんの言ってた町内会の集金だろ。ちょっと見てくる」
隆也が席をはずしたとたん、残された二人は容赦なく睨みあった。
「・・・おめー。オレのタカヤにベタベタ触ってんじゃねーよ」
「だから、てめーのもんじゃねえ、つってんだろ」
「おめーは、んっとに性格悪ぃな。んだよ、その態度の違いはよ!」
「うっせーな。お前みたいな直球バカが兄ちゃんの心を奪えると思うなよ」
「おりゃー、直球じゃなくて剛球派なんだよ。タカヤの心は出会ったときから鷲づかみだっつーの。初めてオレの球を受けたときのタカヤの顔、あれは確実にオレに惚れてたね」
「・・・いっぺん捨てられたくせに・・・」
「捨てられてなんかねーよ!」
「じゃあ、なんで兄ちゃんはてめーんとこの高校に行かなかったんだよ」
「ちょっとした愛の障害づくりだろ!」
「ありえねー。どんなおめでたい頭だよ!」
「ばーか、これはポジティブシンキングっつーんだよ!!一流選手の証なんだよ!!!」
「てめーは前向きすぎて、兄ちゃん見てねーからムカつくんだよ」
「タカヤの身体で見てねえとこなんてねえっての!」
「そういう意味じゃねえよ、ほんとあったまわりーな。だいたいそれ言うなら、オレは子どもの頃からの兄ちゃんのすべてを見てんだからな!!お前、兄ちゃんのツルツル時代知んねーだろ!」
「っっつ!!いんだよ。オレは今のモッサモサのタカヤを愛してんだからな!!!」
「愛してるとかいうな。だいたい、兄ちゃんはキャッチ馬鹿だから投手に優しいだけなんだよ。勘違いするなっての」
「おめーなんて、ただのブラコンじゃねーか。血が繋がってるだけだろーが」
「血の繋がりをなめんなよ。オレなんて兄ちゃんに輸血もできるし、いざとなったら生体肝移植のドナーにだってなれんだからな!!てめーにゃ無理だろ」
「ド・・ドナドナなら歌えんぜ」
「だからてめーはバカ!なんだよ!!」
「おっまえ、年下のくせに人のことバカバカ言いやがって!」
「だってほんとにバカだろ!」
「こんのっ・・・」
「うわっ、やめっ!!」
荒っぽい言葉の応酬が過熱して、二人して取っ組み合いをはじめる。勢いで炬燵まで派手な音を立ててひっくり返り、震動で棚から物が落ちた。
「なんか今すげー音したけど、二人してなに暴れて・・・・」
用事をすませて戻ってきた隆也が、激しい物音を訝しみつつ居間のドアを開けると、逆さまになって虚しい赤い光を放つ炬燵、散らばったみかん、棚から落ちた雑貨・・・無惨に荒れ果てた光景が目に飛びこんだ。
そしてその荒みきった部屋の中、痛々しく床に転がった弟の身体を押さえつけるようにのっかっている榛名の姿も―――。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
息苦しいような真空の沈黙を突き破ったのは一番若いシュンだった。
「にーちゃーーーん!!モトキさんが、いきなりっ・・・!」
「んなっ・・!」
「・・・・あんたって人は・・・」
隆也が低く唸る。
「いや、ちがっ・・タカヤ!!」
「にーちゃん、オレ、怖かったあ」
「ああ、もう大丈夫だからな」
自分の胸にとびこんできた弟の背中を優しく撫でてやりながら、榛名に向き直った隆也が厳しい眼差しを向ける。
「・・・元希さん、いったいどういうつもりですか・・」
感情のない声になぜか榛名の背筋は凍りついた。
「誤解だっての!オレ、なんもしてねーよ!!」
「・・・・・」
今年最大級の寒波到来な視線を必死にうけとめていると、ぬくぬくと隆也の背中に手をまわして、べったりくっついたシュンが腕からちらりと顔を覗かせて、榛名にむかって舌を出した。
(ざまーみろ!)
(んにゃろうーーーーーー!!!)
かーわいい竹下さんにいただいた絵で書いたシュンタカ。
私が書くとシュンタカというよりシュンVS榛名・・。
萌えの欠片もなくてほんっとすみません。
ちなみにドナーは20歳になってから。シュンちゃんもO型だといいな。
竹下さんの素敵絵は
こちらから〜
(2007/11/20)