プレゼント
「あったか?」
「ないー」
ゴールデンウィークにもう二度と足を踏み入れまいと決意した阿部の部屋に、一月と経たず、水谷と花井は再び訪れていた。
大切にしていた携帯のストラップを失くしてしまった水谷は、思い当たる場所のどこにも見つけられず、もしかしたら阿部の部屋に落としたのかもしれないと、意を決して探しにきたのだ。
花井はつきあう義理も理由もないのに、一人で行くなんて絶対無理と水谷に泣きつかれ、文句をこぼしながらもほっとけない主将気質のため、阿部の部屋で仲良く一緒に床を這い、ソファの下を覗き込んで、水谷の落し物を探していた。
「あー、いったいどこに行っちゃったのかなぁ」
「んなとこに、あるわけねえだろ」
さんざん部屋中を探しても見つからず、ついには冷蔵庫までのぞきこむ水谷に、阿部が呆れたように言い放つ。だよねー、と返事した水谷が、突然、犬のように顔を庫内に突っ込んだ。飲み物と調味料しか入っていないがらんとした庫内でひときわ目立つ、つるりとした上品な白い箱を指差して叫ぶ。
「これケーキじゃん!?まさか、阿部、オレのために!」
感動に目を輝かせて水谷が振り返る。
「ちげーよ。バカ。今日は元希さんの誕生日なんだよ。で、ちょうど今日遠征から帰ってくっから、準備を・・・ん?どーした?」
淡々と告げた阿部の言葉に水谷の顔がみるみる青ざめていく。
「は、榛名さんの誕生日、なの?」
「ああ」
「きょ、今日が?」
「ああ」
「で、か、帰ってくんの?」
「ちゃんと喋れ、てめーは三橋か。オレ、元希さんが今日帰ってくること言ってなかったか」
「聞いてないよー」
ぶんぶんと派手に首を振り回して叫ぶ。
よりによって、誕生日だなんて一大イベントにやってきてしまった自分の間の悪さを呪いたくなる水谷だった。
「オレ、帰る!」
「はあ?ケーキがお前のじゃないからって拗ねんなよ。ジュースなら飲んでもいいぞ」
「いや、いいです。ていうか、ほんと今すぐ帰らせて下さい。ね、花井!」
声をかけるまでもなく、二人の会話を耳にした花井はすでに帰り支度を整えているところだった。
逃げるように慌しく玄関に向う二人の後を、怪訝な顔を浮かべて阿部がついていく。
「おい、水谷、探し物はいいのか?」
「いい、いい。どっちにしろ、ここにあるかどうかもわからないんだし」
「んじゃ、掃除するとき気をつけといてやるよ」
「ありがとうー・・・あ、阿部、血っ!!血が出てるー!!」
靴を履いていた水谷が、阿部の手首を指して悲鳴をあげる。シャツの袖口から、鮮やかな赤色が垣間見えていた。
「ああ、これか」
阿部が袖をめくると、左の手首に結ばれた赤いサテンのリボンが姿を見せた。
「リボン?」
「なんだそれ、なんかのまじないか?」
花井が首を傾げる。
「いや、今日が元希さんの誕生日っつったろ。で、何が欲しいかって聞いたら、あいつ、オレがいい、ってふざけたことしか言わねえから、冗談でケーキの箱についてたリボンを結んでだ・・・」
「ダメ―――――――――――――――――――!!!!」
「あ?」
「ダメダメダメダメダメ!!それだけはやっちゃダメ!!絶対ダメだよ―――!!!」
いきなり絶叫して、膝にしがみついてくる水谷に阿部は困惑する。
「阿部、それカモ鍋だよ。カモだよ。危ないよ。いくらなんでも危なすぎるよ―――!!!」
「おま、何言ってんだ。つか、うっとおしいから離れろ。おい、花井、こいつ何とかしてくれ」
カモカモカモと叫びながら、尚もしがみついてくる水谷を引き剥がしつつ、助けを求めて視線を向けると、花井はこれ以上ないくらい深く重くうな垂れて頭を抱えこんでいた。
「おい、花井。お前までどしたんだよ。頭でもいてーのか?」
「いや、そういうわけじゃねんだけど。・・・ちょっと油断した」
「何をだよ」
「あのな。阿部さ、いいかげん榛名さんのこと、わかってあげたほうがいいんじゃねえの」
「はあ?なんでいきなり元希さんが出てくんだよ?」
「いや、それは、その・・・」
「がんばれ、花井!」
「うっせーよ。てめーはいいかげん離れろ」
花井に声援を送る水谷を、粗雑に足で蹴って追い払う。
「阿部、ひでー。オレは阿部のために〜!」
「落ち着け、水谷」
足元に転がってきた水谷に、花井が小声で喋りかける。
「これは榛名さんにとってはチャンスじゃねえのか」
「へ?」
「たまには阿部がこれくらい積極的にでたほうがいいってことだよ」
「あ、なーるほど。そうか。でも阿部、あれ絶対わかってやってないよ」
「阿部だからな。まあ、そこは榛名さんがなんとかするだろ。てか、もうオレ、榛名さんが気の毒すぎてさ・・・」
「わかるよ。花井!それはオレもだよ。阿部、ひどすぎるよね。平気でベッドで一緒に寝てるとか小悪魔とおりこして悪魔だよ」
「まったくだ。榛名さんの忍耐力が計り知れねぇよ」
声を潜めて二人して榛名に深く同情していると、苛ついたように阿部が声をかける。
「何、コソコソ喋ってんだ」
「い、いや、なんでも!!」
「ああ、なんでもない」
うろたえる水谷と花井の姿に眉をしかめてから、手首に巻いた赤いリボンに視線を落として呟く。
「つか、もしかしてこれが、そんなサムいのか。やっぱやめとこ・・・・」
リボンをほどこうと伸ばした右手を水谷が必死に防ぐ。
「いや、ぜひ、そのままで!!」
「おま、さっきダメダメって叫んでたじゃねえか」
「いやいやいや、すげーいいよ!よすぎてダメー!って感じ?ほんとそれ最高だから!!阿部にしかできないよ!ね、花井!!」
「おう、似合ってる」
「・・・そうかあ?」
阿部はうさんくさそうに、手首のリボンと二人の顔を交互に眺める。
「そうだよ!だから絶対自分でほどいちゃダメだよ。それはぜひ榛名さんに見せてあげないと!」
「んな、張りきるほどのもんじゃねーよ。ちょっとした冗談だっつってんだろ」
「冗談でもいいから、とにかく榛名さんに見せてあげようよ!!」
「わかったって」
迫力に押された阿部が、訝しげな表情を浮かべながらも渋々頷くと、花井と水谷は満足げに視線を交わす。
「じゃあ、オレらは帰るな」
「阿部、明日つらかったらオレが代返行くから!」
がばっと抱きつかんばかりの水谷から身をひくと、冷たく返す。
「いらねえよ。だいたいお前、学部が違うじゃねえか」
「いや、もうそんなのどうでもいいよ。だから阿部は心おきなく榛名さんと・・・いてっ」
水谷の頭を殴って言葉を封じた花井が、阿部に真剣なまなざしを向ける。
「まあ、あれだ、阿部。頑張れよ」
「なんだよ花井、お前もさっきから気持ち悪いな。お前ら二人揃って五月病にでもなってんのか」
「とにかく、榛名さんの言うことを聞いてれば間違いねえから」
「だから、何の話だよ・・・あ、戻ってきたかも」
「へ?」
一斉に視線が玄関に向けられる。同時に鍵の廻る音がして扉が開き、阿部の言葉どおり榛名が姿を現した。
「あ?」
帰宅早々、玄関に見慣れぬ人影が溜まっているのを見て、榛名が眉をしかめる。
高校のときから、試合で対戦したり、阿部絡みで何度も会ったことのある榛名だが、プロ野球選手になってさらに身体が鍛えられひと回り大きくなっているようだ。しかも気の荒いネコ科の獣のような鋭い瞳で見据えられ、水谷と花井は思わず寄り添いあった。
「タカヤ。こいつら、誰?」
榛名が低い声で問いかける。阿部が答えるよりも先に、動揺が頂点に達した水谷が喚いた。
「す、すみません。お邪魔してました。オレらはなんにもしてませんから!!ていうかオレ、榛名さんのことすげー応援してます!!男として尊敬してます!!どうか今日こそは思いを遂げちゃっ・・・」
「黙れ!」
花井が慌てて騒がしい口を両手で塞ぐ。
「すみません、お騒がせして。どうも失礼しました!じゃあな阿部!」
花井は深々と直角に頭をさげると水谷を引きずり、玄関を背にして立つ榛名の隣をすりぬける。
「阿部、がんばれー!」
扉が閉まる間際、間の抜けた水谷の声だけが部屋の中に響いた。
二人が慌しく立ち去ると、状況が理解できないままの榛名が不思議そうに訊いてくる。
「何、あの茶髪?オレのファン?」
「・・・さあ」
「おもしれー奴」
「あいつはいつもヘンなんすよ」
「ふーん。まあいいや。ただいま」
「お帰りなさ・・・なんでいちいち抱きついてくるんすか!」
靴を脱いであがるなり、もたれかかるように覆いかぶさってくる巨体に蹴りを入れたが、榛名はおかまいなしだ。
榛名の部屋で暮らし始めて二ヶ月。大学生活には少しずつ慣れてきたが、榛名との生活はいまだ戸惑うことが多い。というのも遠征などで月の半分以上はおらず、今日だって顔を見るのは十日ぶりだった。
だからって、なんで抱きつかれなきゃなんねーんだ。
うっとおしいが、抵抗しても力で適わないことはよくわかっているので、諦めておとなしく腕の中でため息をつく。
「タカヤ、会えなくて寂しかっただろ」
「いや全然。つか、毎日電話してくるのマジやめてください。オレちゃんと留守番してますから。それに元希さんだって大変でしょう」
「大変じゃねえよ。遠慮すんなって」
「遠慮ってわけじゃ・・・あれ?元希さん、酒飲んだんすか?」
榛名の体温とほのかなアルコールの匂いに包まれて、体が熱くなってくる。見れば、目の前の榛名の首筋もかすかに赤く染まっていた。
「ああ。ちょっとだけな。帰り間際、先輩たちに無理やり飲まされた」
「誕生日ですもんね」
「そんなん、どうでもいいってのにな。けど、もちろん、タカヤはなんかくれんだよなー?」
ようやく満足したのか腕がほどかれる。榛名の胸の中から解放されてほっと安堵したのもつかの間、顔を寄せて、子どものようにねだってくる。
「あー、はい」
軽くあしらうように返事して、顔を背けた。
だから、いちいち顔を近づけんなっつーの。
榛名は顔だけはいい。悔しいけれどそれは中学のときから認めている。プロになってからだって、雑誌やCMといった野球以外での仕事の依頼が後をたたない。
なまじ顔がいいと、近づくことの羞恥心が欠けるんだろうな。うっかり女に近づいたりしてヘンな噂がたたなきゃいいけど。
余計な心配をしながら、阿部は自分の手首を探り、袖の内側に結ばれているリボンのたわみを確かめる。
榛名への誕生日プレゼントはそれなりに真剣に考えたのだ。榛名は家主でもあるし、格安で住ませてもらっていることへの礼もある。だが、プロ野球選手として華々しく活躍している榛名の生活をまのあたりにすればするほど、学生の自分が榛名に買えるものなどろくにないことを思い知った。
何が欲しいか聞いても、ふざけたことしか言わねえし。
だから、無難にケーキを買って、それでお祝いの気持ちを表すことにしたのだが、箱に結ばれたリボンを見たとき、ちょっとした悪戯心が生まれた。
いつも自分をからかう榛名に仕返しのつもりで、軽い気持ちのまま手首にリボンを結んだというのに、いざ見せようとすると、さっきの水谷たちの反応を思い出してしまう。
やっぱ、これ、すげーつまんねぇんじゃないだろうか・・・。
水谷と花井の二人が、何やらこそこそ話していたことも気になる。
やめておくべきだろうか。でも、どうせ冗談だしな。そんな深刻に考えることもないか。
「タカヤー?」
「・・・んじゃ、どうぞ」
ねだる声に腹をくくると、握りこぶしをぎゅっと固め、左腕を正拳突きよろしく突き出した。いきなり拳を向けられ、きょとんとしている榛名に、リボンが見えるよう肘まで袖をめくりあげる。
「はい、プレゼントです」
阿部の言葉に榛名が硬直する。
無言のまま赤いリボンが結ばれた手首を凝視して微動だにしない。
予想以上の重苦しい反応に阿部までぎこちなくなる。戸惑い、おずおずと見あげると、榛名は脱力したように肩をおろしてしゃがみこんでしまった。
沈黙がのしかかる。
冷たい風がひゅるりらと頭上を駆け抜けていくような気がして、もはや「冗談です」とすら、言うことができない。
やべぇ・・・やっちまった・・・。
あきらかにすべってんじゃねえか!!あのクソレフト――――――!!!
理不尽にも水谷にやつあたりすると、あまりの居たたまれなさに耐え切れず、阿部はその場を離れようとした。
「いっ!!」
そのとき、下から伸びてきた手に、痛みが走るほどきつく手首を捕らえられた。無言の榛名が力任せに阿部の体を引き寄せる。と、今度はとびきり優しい動きで指を取った。
「も、元希さん?」
右手でリボンの巻かれた手首を掴み、左手で阿部の指先を撫でる榛名はうつむいたまま表情が窺えない。
怒っているのか、呆れられているのかわからず落ち着かない阿部は、もう一度名を呼んだ。
「あの、元希さん?」
「プレゼントなんだろ。じっとしてろ」
それだけ告げると、榛名の硬い親指が、阿部の指の爪先から節を、ゆっくりと這う。手の甲にたどりつくと、親指から人差し指、中指、薬指、小指へ。一つ一つ、繰り返していく。見入ってしまうほど丁寧で緩やかな榛名の指の動きに、思わず息を詰めていた阿部は、熱い息を吐いた。
ほんと、触るの大好きなんだよな。つか・・・。
「元希さん、なんか触り方がすげーやらしいんですけど・・・」
「ばーか。やらしく触ってんだよ。どうだ、感じる?」
「感じるっつーか、虫ずがはしります」
「・・・むし、ず・・・」
指を握ったままの、榛名が肩を落とす。
「・・・お前、ほんと萎えさせんのうめーよな。ソレまさか計算してやってんじゃねーだろうな」
「はあ?つか、こういうことをオレで練習するのやめてくれませんか」
「練習なんかじゃねえよ。オレはタカヤだけなんだから」
指先を撫でながら榛名が告げる。
榛名と一緒に暮らして一番困るのは、この戯言だ。
そりゃ、榛名にはいろいろ経験があるのかもしれないが、ろくに恋愛をしたこともない自分をからかうのはやめてほしい。接触になれない体が戸惑って、だんだんどう反応すればよいのかわからなくなってしまう。
「はいはい。そりゃどうも、ありがとうございます。嬉しいです」
できるだけ感情をこめずに礼を述べると、榛名の指の動きが止まって、ぱっと手が離れた。
「はー。お前もさっさと大人になってくれねえか」
「オレの誕生日はまだまだ先です」
「そういう意味じゃねえよ。ったく、タカヤのくせにプレゼントはわ・た・し、とか10万年はえーんだよ」
「いや、だから、これ、冗談なんで」
「わーってるよ、心配すんな」
投げやりに告げた榛名が、乱暴にもう一度阿部の指を捕らえる。と、手首から流れ落ちる赤いリボンの端を荒っぽく口にくわえた。
突然の行動に阿部が目を丸くしていると、榛名はそのまま口にしたリボンを引っ張る。手首の内側に唇が触れ、薄い皮膚の上を這った。
「・・・っ」
背筋を駆け上がるような慣れない感覚に息をのむと、眼差しをあげた榛名と目があった。自分を見上げる榛名の綺麗につりあがった目に視線を奪われる。リボンのほどける音がやけに鮮明に耳に響いた。
「んじゃ、これだけ貰っとくな。サンキュ」
口でほどいた赤いリボンをくわえたまま榛名が笑う。
「ど、どうぞ」
「来年は中身も貰うからな」
「は・・・や、だから、これは冗談ですから。ちゃんと中身も準備してますって」
そう言いいながら、勢いよくその場を立ちあがり台所に走った。榛名の顔を見ていられない。
唇が触れた手首がヒリヒリと痺れ、先ほど撫でられていた指先までが疼きだす。鼓動が早い。
なんだって、こんなわけのわかんねーことすんだよ!
だいだい、なんで口でほどくんだ。手を使えよ!動物か!!
バクバク悲鳴をあげる心の中で罵りながら、救いをもとめるように冷蔵庫を開いた。流れ出す冷気が、上気した頬を気持よく鎮めていく。
冷蔵庫の中で落ち着け、と何度も首を振ってから、買っておいたケーキの白い小箱を取り出した。
扉を閉めて、もう一度深呼吸をする。
動悸が落ち着いたのを確認し、何事もなかったように箱を手にして戻った。
「これ、あまりクリームを使ってないケーキなんで・・・」
言葉が途切れる。
ソファに腰掛けた榛名が、赤いリボンを目線の先まで摘み上げ凝視していた。まるで愛おしむような深く優しい目。見慣れない物憂げな横顔に釘付けになる。
「お、ケーキ!」
阿部に気づいた榛名が嬉しそうに声をあげて、とたんに慣れ親しんだ笑顔を浮かべる。
リボンを大切そうに胸のポケットにすべり落とすと、近づいてきて阿部の頭を柔らかく叩いた。
「これがお前のいう中身なわけだ」
「・・・そうっす」
「うんうん。んじゃ一緒に食おうな」
「ちょっと年とったからって、人を子ども扱いすんのやめてください」
こんなことを言う自分が子どもじみていると思う。なんだかひどく調子が狂ってる。
「誕生日おめでとうございます」
紅茶も準備してケーキと一緒にテーブルに並べた。何事もなかったように大口を開けてケーキを食べている榛名を見つめる。
ほら、こういう人なんだ。動作が動物的なだけで、意味なんかねえんだからいちいち動揺するなんて馬鹿げてる。
向かい合ってケーキをつつきながら、深く自分に言い聞かせる。
ふと、榛名の胸のポケットからのぞく赤いリボンに目が留まった。
なんだろう。嬉しいような、物足りないような、落ち着かないこの感じは。胸が高鳴って浮き足だつ、同時に潮が引くように気分が沈む。
「何?元希さんはケーキを食べててもかっこいい?惚れ直す?」
手が止まったままの阿部を茶化して笑いかけてくる。自分を見つめる目に、さっきの横顔が重なってさらに居心地が悪くなった。
「アホですか。黙って食ってください」
厳しく告げて、慌ててケーキにフォークを刺す。口にはこんだケーキの味もわからないまま、もう一度視線だけでこっそり榛名の姿を窺った。
シャツの胸にしまわれた赤いリボンが、なぜかとても羨ましいだなんて、きっとどうかしてる。