「タカヤ・・さん」
「んー、なんだ?」
「・・・呼んでみただけっす」
「んだよ。ヘンな奴だな。ああ、それより今度の試合のあれな・・・」
上目づかいでオレを睨みつけると、次の試合について話し出す。
コース、配球、打者の弱点、丁寧に分析された表を思い出しながら相槌をうつと、嬉しそうにあんたが笑う。
「おう、よく覚えてるじゃねーか。もと・・前のピッチャーとはえらい違いだな」
「・・元希さんですよね」
「ん、ああ」
失敗したとでもいうように、さっきまでの笑顔が翳って途端に険しくなる。
これ以上の会話を拒絶したがってるあんたを、オレは素知らぬ顔で追いつめる。
「・・・タカヤさん、ほんとにオレで満足してるんスか」
「はあ?何言ってんだよ。お前はいいピッチャーだよ。コントロールもいいしな」
「でも、元希さんは別格だったっしょ、二人で関東ベスト16だし」
「・・・16どまりだろ」
元希さんのことを口に出したとき一瞬だけ浮かぶ、あんたの崩れ落ちそうな表情が好きだ。
もっともっとその顔が見たい。
でもあんたは絶対そのことを認めたりしないんだろう。
なんでそんなに嘘つきなんだよ。
そんなオレより頼りない身体して、どうしてそんなに強がれるんだよ。
オレのこと、あの人に比べて扱いやすい投手とだけ思ってるんだろ。
裏切って、もっとあんたをギリギリまで追いつめたら、
あの人にだけ見せていた顔をオレにも見せてくれるんですか。
「そんなことより、投球練習すっぞ。さっさと行け」
「ういーっす」
「っっ。何すんだよ!」
「いや、髪伸びてきたなーと思って。伸ばしてんスか」
「どーでもいいだろ。そんなこと!」
「タカヤさん」
「んだよっ!」
「なんでもないっス」
「お前もたいがいうぜーな・・・」
呆れたように告げて、タカヤさんがヘルメットを被る。
ねえタカヤさん、気づいてないんだろ。
オレが背後からあんたの頭に触ると、身体が強ばること。子どもみたいな目になること。
誰と間違ったんですか?なんて絶対聞かねえけど。
あんたの中は今だってあの人でいっぱいだ。
あの人のあの激しい球を浴びてたあんたが、オレの球に満足してるわけがない。
こうして向かい合えば、オレの球を受けるあんたの身体が、物足りないって叫んでる声が届く。
それでも、オレはあんたにボールを投げる。
あんたが、あの人に囚われたままでも、
「ナイスボール!!二球!」
今だけはオレのもんだろう。