パライソ(※シニア時代の捏造後輩ピッチャーとタカヤです。興味のない人はまわれ右。)


苦しいときに見る青い空は忌々しい。
心と同じようにどす黒く染まればいいのに。


泣いているタカヤさんを初めて見たのは、オレがシニアに入って間もない頃だった。
そのとき、タカヤさんはあの凄い投手の腕の中にいた。

入団したとき、左腕一本でチームをひっぱっていた投手の球を受け止められるのは、一つ年下のタカヤさんだけだった。
感情表現が激しいこのバッテリーの衝突は凄まじいから、はじめて見たら驚くかもしれないけれど、いつものことだから気にするなと先輩たちに教えられていた。
話に聞いていても、初めて二人の口論を耳にしたときは唖然とした。しかも自分が目撃したのは、とりわけ特殊な喧嘩だった。
そのとき、二人は誰もいなくなったグラウンドで言い争っていて。
オレは、元希さんよりひと回りも体の小さいタカヤさんの臆さない姿に目を奪われた。
タカヤさんが顔を紅潮させてつめよると、元希さんはなんともいえない表情を浮かべる。
そのことに気づかないタカヤさんが声を荒げると、元希さんはその声を吸い取るように抱きしめた。 簡単に捕まえられたタカヤさんは首を振って、全身を震わせ抗っていたけれど、
「タカヤ」
元希さんに名を呼ばれると、そのまま腕の中でおとなしくなった。
苦しそうに、涙をにじませたままで、それでも従順にタカヤさんは元希さんの腕の中にいた。

あの頃、タカヤさんは完全に元希さんのものだった。
元希さんに囚われていないタカヤさんの姿なんて想像もつかなかった。
あの人がいなくなったら、ただの抜け殻になるんじゃないかと思ってた。
だけど、タカヤさんはそんなそぶりも見せずに、今は笑顔でオレの球を受けている。
ただ、その視線はいつもオレを見ていない。
今はここにいないあの人の球を受け続けている。
元希さんの影からあんたを助けたくても、オレのこの腕じゃだめなんだ。
オレはただあんたに球を投げるだけ。

「ナイスボール!!今のよかったぞ!」
タカヤさんが近づいてきてオレに笑いかける。
どうしてあんたはいつもそんな顔で笑って、オレの前では泣いてくれないんだろう。
その笑顔に苛立って、立ち去ろうとするタカヤさんの体を、背中から強引に抱きしめた。
耳元に口付けるように唇を寄せると、腕の中のタカヤさんの体が跳ねる。
「・・なっ・・。どうしたんだよ」
手足をばたつかせるのに構わず抱きしめれば、体の華奢さをあらためて思い知る。
こんなに細い体で、キャッチだなんていくらなんでも頑張りすぎじゃねえか。
じたばた暴れる所作に誘われて、ばれないようにつむじに軽くキスをした。
あの人も、こんなふうにタカヤさんを愛おしんだはずだ。
きっと、もっと激しく。
元希さんに抱きしめられるタカヤさんを思い出すと、暗い影が落ちてきて、胸にひとつ不穏な波紋が広がった。
「・・・ってめえ、いいかげんにっ・・」
タカヤさんが頭突きをくらわそうとしてきたから、咄嗟に腕を離してかわす。
体が自由になったタカヤさんは、すかさずオレから離れると、これ以上ないくらい顔を真っ赤にして怒鳴る。
「何してくれてんだ、てめーは!!」
感情が高ぶりすぎて、目が潤んでいる。
そんな顔で怒られたら、ますます抱きしめたくなるってことを、きっとタカヤさんだけがわかってない。 ずっとそうやって元希さんにイヤというほど玩ばれていたんだろうから、いいかげん学習すればいいのに。
あんたがそんなだから、オレは―――
「・・・なんでもないっす。タカヤさん、ちっちぇーから、かわいいなーって」
わざと軽い声で告げると、目に見えてタカヤさんの怒気が激しくなる。そんな姿さえ子猫が毛を逆立ててるようにしかみえない。
「ざけんなっ。今度やったらぶっ殺すからな!」
「はーい」
「ちゃんと返事しろ!」
「はい」
上目づかいでひと睨みして去っていく。その目にまた情欲をかきたてられる。
どこまで、人の心を揺さぶれば気がすむんだろう。
結局自分もあの人と同じ欲望しか抱けない。いや、吐き出さずに胸に抱えているオレの欲望のほうが捻くれて醜いだろう。
あんたを元希さんの影から救いたい。
あんたをめちゃくちゃに壊したい。
矛盾を孕んだ感情に心を掻きむしられて、どうしようもない閉塞感に苛まれる。
きっと永遠にこのままだ。
だけどオレはあんたに球を投げられるだけで、幸せだなんて本当に救われない。

空には雲ひとつの陰りもなくて、果てしない青さに今日も絶望する。




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毎度、自己満足の後輩話でほんと申し訳ありませーん。
某動画で「天/国/よ/り/野/蛮」を久しぶりに聞いて
ムラムラした勢いのままに書いてしまいました。
この歌めちゃくちゃ大好きだったんだよー。
私、苦しむ後輩が好きすぎてほんと困る。
当サイトは2008年も後輩を勝手に応援してますwwwww
(2008/1/3)