シニアの練習があった日は、風呂と食事をすませたら倒れるように
眠ってしまえるのだけど、今日はすんなりと寝付けなかった。
明日からは合宿で集合時間も早い。しっかり眠っておこうと意識すればするほど
眠れなくなってしまって、ひまつぶしに元希から無理やり押しつけられた
グラビア雑誌を手に取った。
パラパラとめくっていると、ロッカールームで元希たちが見ていた見開きが現れた。
新人のグラビアアイドルたちが得意ポーズを披露している姿が並んでいる。
かわいい女の子たちの胸やお尻や、腰のくびれや、
太ももが強調されている写真はそれなりに刺激的だと思う。
でも、この中から選べって言われても・・・
―――ネタはタカヤでいいや!
ふいに昼間の元希の言葉を思い出して、頭をぶんぶん振る。
ネタって、オレがネタって・・。
タチの悪い冗談だってわかっているのに、なぜか思い出したら体中が熱くなってくる。
おかしい、おかしい。オレどうなってんだ。
隆也は首が痛くなるくらい、さらに頭を激しく振った。
元希さんのことを思い出したらドキドキしてくるなんて絶対ヘンだ。
なんだか落ち着かないような、走り出したいような気分になるなんて。
あまりに頭を振りすぎてクラクラしてきたので、目を固く閉じてやり過ごそうとしたら、
真っ暗の視界の中に、元希の顔が思い浮かんできて慌てて目を開けた。
だから、なんで元希さんがでてくんだよ!ああ、もうどうなってんだ!オレ。
きっとコレ見てヘンに興奮しちゃってるからに違いない、と隆也は手にしたグラビア雑誌を
部屋にある適当な袋に入れると、厳重にかばんの中にしまいなおした。
気分を入れ変えるために、この前買った野球雑誌を読むことにする。
学生向けの野球雑誌だから、野球以外の余計な記事が多くて、
興味のある特集記事だけ目をとおして放っておいたものだ。
ゆっくりといつもは読まないような読者投稿のページまで
丁寧に読みすすめていると、読者相談のコーナーが目に入る。
彼女とのデートはどこへ行けばよいですか、といった他愛のない質問に
そんくらいテメーで探せ、と呆れてそのページを読み飛ばそうとしたら、
隣に掲載されている質問が目にとまった。
Q
部活の先輩が気になってしかたありません。
3年生のキャプテンで、とても優しくて親切な人で、
かっこよくて面倒見もよく頼りがいがあります。
部活中、気がつくと先輩を見ています。
部活以外のときも先輩のことを考えると胸が苦しくなります。
これはいったいなんなんでしょうか。
同じ男同士なのにこんな僕はヘンなんでしょうか。
A
かっこよくて優しい先輩が気になるんだね。
君のような思春期の時期には同性への純粋な憧れや尊敬と
恋愛感情の区別がつかないことがあるんだ。
君が先輩を意識してしまうことはちっともヘンなんかじゃないよ。
誰かを好きになる気持ちはとても素晴らしいことだから、
自分の気持ちを否定せずに、そんな素敵な先輩に会えた幸運を大切にしよう。
そこまで一気に読んだ隆也は熱線に触れたように雑誌を床に放り投げた。
いやいやオレにはカンケーねえから、別にオレは元希さんのこと考えて
胸が苦しくなったりなんてしてねえから!と一人でじたばたする。
・・・ただ最近、触られたときにちょっとドキドキするだけだ。
だってあの人、いきなりベタベタ触ってくるからな。
それでびっくりしてドキドキさせられてるだけなんだ。
練習中は、投球練習で向かい合わなきゃなんねえからいつも見ているのは当然で、
姿が見えないときは、あの人が何しでかすかわからないのが気になって探してるだけだ。
だいたいあいつの性格なんて最悪だし。面倒なんてオレのほうが見てるくらいで。
優しくも親切でもないし・・と並べ立てていて、ふと、帰り際の元希を思いだす。
―――さっさと帰って寝ろよ
いや、あんなのはただの気まぐれだ。あの人がオレの心配してるとしても
ボコボコ投げれる壁がいなきゃ投球練習ができないからってくらいのもんだ。
そりゃ顔がかっこいいことだけは認めるけど、頼りになるなんて・・・・
まあ、試合のときだけちょっと思うけど。でもほんとにそのときだけだ。
だいたい、元希さんのとりえなんて顔と投げることだけなんだからな!
だからオレには関係ない、関係ないけど・・・
長い長い葛藤の後、隆也は躊躇いつつも無残に床に落ちた雑誌を拾い上げた。
おそるおそるページを開いて、もう一度読んでみる。
なにが幸運を大切にしようだよ、ありきたりな回答だ、と文句をつけながらも
たしかに、元希に出会えたことは幸せなことかもしれないと思う。
あんなすごい球を投げる投手と出会えるなんてことはめったにない。
元希の壁になってから、捕球の技術も向上したし、レギュラーにもなれた。
自分勝手な態度には腹が立つけど、元希の投球に対するこだわりや
野球への真摯な姿勢は尊敬できる、と思う。
今まであんなにも野球に打ち込んでいる人に出会ったことはなかった。
・・うん、そうだ、きっとオレは元希さんのこと尊敬してるんだろう、
あくまでも野球に関すること限定、だけど。
元希さんと一緒にいてドキドキするのは、その気持ちがごちゃごちゃになってるからだ。
ここにも恋愛感情と憧れの気持ちが区別つかないことがあるって書いてあるし。
まさか元希さんのことが・・・・。
そこまで考えて隆也はまた首をぶんぶん振った。
まさか元希さんのことが、好き、なんてことは絶対ない、よな。
絶対あるわけない。
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